2025年11月01日 [長年日記] 編集
§ [CoC] シナリオ:廃屋の宝探し
今月の小冒険は趣向を変えて新クトゥルフ神話TRPGですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
S県の山奥にある資産家の
戸村重蔵は金に飽かせてさまざまな薬種や珍品貴品を買い、蔵にしまい込んで研究をしていた。なかでも彼の興味を惹いたのは、抜け荷で日本に持ち込まれた“ミルラ”である。それは人の形をほぼ留めているミイラだが、彼は自分の研究を書き留めていた帳面には“ミルラ”と書き記していた。
重蔵の手に入れたミイラは古代エジプトでヨグ=ソトースを信仰する魔術師キムトが、精神を転移させてさまざまな次元を旅した後に帰ってくるための依代として保存していたものだ。重蔵はそのようなことはまったく知らず、副葬品の古文書と共に研究していたが、いかんせん幕末から明治初年で資料も少なく、しかも田舎の素人趣味であったため、副葬品の古文書を不完全に解読するだけで終わり、クトゥルフ神話に繋がるような事象は発生しなかった。
その後、戸村家の主だった者たちは都会へ出て、屋敷は近くに住む分家の者たちが年に何度か管理する程度になっている。
そして現代、戸村家の末裔で某大学の文学部に通う
そこで明日香は探索者たちにS県の山奥にある実家を調査してミルラを見つけ、一儲けしないかと誘ってくる。
しかし、明日香がミルラと考えていた物はミイラであり、しかも“彼”はヨグ=ソトースの導きによる旅から休憩して自らの体に宿り、一時の安息を謳歌している。
戸村家の屋敷を探検し、ミイラをどうにかすればシナリオは終了である。
NPC紹介
キムト:56歳(ミイラになった時の年齢)、古代エジプトの魔術師でヨグ=ソトースの信奉者。数ヶ月前に戸村重蔵が保存していたミイラの中に戻り、屋敷の中にある書物で日本語を学び、乾燥したミイラの保存に適さないこの地から旅立とうと《時空門》を作ろうとしている。じゅうぶん理知的であり過度な残虐性もないが、POWを得るために人間を生贄にすることへの罪悪感はない。
シナリオの導入
探索者は学友や知人である戸村明日香から古ぼけた和綴じの本を見せられる。彼女はある部分を指でなぞり「ここには『人の躰ほど大きなミルラを入手せり』って書いてるの。ミルラって言ったらお香やアロマオイルの材料よ。私の家にはそんなのが無いから、山奥にあるご先祖の家にまだあると思うの。見つけて一儲けしない?」と儲け話をもちかけられる。
分け前について話すと「私の家の物だから私が6割、君たちが4割を山分けでどう?」と言うが、ハードの〈説得〉などで成功すれば5割と5割、イクストリームならば4割と6割まで譲歩する。
彼女は何かと忙しいため探索者たちに同行はできないと言うが、探索者たちがどうしてもと頼んだり、人数が少なかったりする場合は同行させてもよい。その場合、探索者としてのデータはキーパーが作ること。
1.戸村家のふるさとへ
戸村家があるのはS県の山奥だ。バスはあるものの1日に数本。免許を持っている探索者がいるなら、レンタカーを借りた方が快適に旅ができる。
現在戸村家の屋敷を管理しているのは、都会に出なかった分家筋の者が管理している。主に掃除などをしているのは戸村ちよ子という70代の老婆で、明日香は彼女に話を通しているので、探索者たちは鍵一式を貸してもらうことができる。
間取りを訊ねるなら、母屋の他に重蔵の代に建てられた離れと、蔵があると教えられる。
ちよ子は探索者たちが戸村家へ向かうことについて、常に心配したような雰囲気で応対する。事情を訊ねるなら、最近屋敷の近くを夜に通りがかると光が見えたりガタガタ音がしたりすることがあるので、悪い連中が住みついてるのかもしれないと話し、くれぐれも注意しなさいと忠告する。
2.母屋
母家は調理場なども兼ねた広い土間と、10畳ほどの部屋がいくつかある。たまにちよ子たちが掃除をしているが、それでもかなり埃っぽい。
〈目星〉で成功したら、埃の中を歩き回っている足跡のようなものを発見できる。ハードで成功すれば、1人がつけたものだとわかる。
3.離れ
この離れは重蔵が建てさせたもので、書斎のような用途に使っていた。中には書棚があり、大量の和綴じの本と少しの洋書が入っていたような痕跡がある。しかし、現在その半分ほどが文机の上や床に乱雑に放置されている。開かれたままのものもあるくらいだ。
この部屋で〈目星〉で成功したら、ここでも埃の中を歩き回っている足跡のようなものを発見できる。ハードで成功すれば、1人がつけたものだとわかる。
この部屋に入った時に〈アイデア〉ロールに成功すると、気持ち悪くなってくる何かが混じったかび臭さを感じ、0/1正気度ポイントを失う。
床の隅には積み重ねられた一群の書物があり、それらを調べて〈図書館〉に成功すれば、黄表紙のような読み物が主であることがわかる。
その他、この部屋にある書物を調べる〈図書館〉に成功すれば、重蔵の蒐集品の目録やそれを調査したことを自分なりにまとめた見解などの書き付け、本草学の文献であることがわかる。その中でも一際目を惹くのが『
『埃及の書について』を読み〈日本語〉に成功すれば、それがミルラはヨ■=■トー■なる神を信仰していたようであること、エジプトについて調べてみたが、ヨ■=■トー■という神は存在しないので、後に添付された偽書であろうと書かれている。この書き付けを読んだ者は、この世に存在しないはずの何かを感じ、1d4の正気度を消失する。
ここの書物を数時間かけて〈鑑定〉にハードで成功すると、ここにある古書はとても良くまとまったコレクションで、かなりの値段で売れることがわかる。
4.蔵
ここは戸村家が代々使ってきた蔵である。中にはいくつかの蔵や櫃があるが、その中身は家の者が都会に出るときに持ち出したのか、空の物がほとんどである。
蔵の奥には棚があり、重蔵の蒐集物が並べられている。同じ並びの壁際には人間がすっぽり入ってしまうくらいの大きさの櫃がある。これの蓋はかなり重く、STRロールに成功する必要がある。
櫃を開くと、中には“ミルラ”ことミイラが横たわっている。これを見た探索者は1/1D8正気度ポイントを失う。
STRロールに失敗した場合、中から蓋が開き、ミイラが現われる。これを見た探索者はあまりの異常さに1D4/1D10正気度ポイントを失う。
5.キムト
ミイラのキムトは黄表紙などで学んだ芝居がかった古風な日本語で探索者たちとコミュニケーションを取ろうとする。「せっしゃ、おぬしらの魂が持つ力が、欲しい」などである。キーパーはロールプレイが難しいと考えたなら、普通に会話して構わない。
キムトはこの場所から出ていくための《時空門》を作りたいために20のPOWを必要としており、探索者たちにそれを要求する。このPOWの喪失は永久的なもので、儀式には20時間かかる。探索者たちがこれを拒絶するなら、野犬などを狩って用立てるように要求する(村外れの森林に行けば犬やクロクマとの戦闘を行なえる)。それも許否した場合、キムトは力尽くでPOWを得ようと探索者に向かって戦闘を挑んでくる。データはミイラのものを使うこと。
キムトにPOWを提供すれば、彼は20時間かけて儀式を終えると、どこか別の時代へ去って行く。キムトを倒した場合、そこにはバラバラになったミイラが残る。
キムトの入っていた櫃の中には粘土板製の古文書がある。これはキムトが自分の研究を書いていた書物で、以下のデータを持つ。キムトと友好的に分かれた場合、彼から探索者に渡してもよいだろう。
キムトの粘土板
中エジプト語、キムト著、紀元前1500年頃
ヨグ=ソトースを信奉していた魔術師が時空間を超越して旅をすることについて書いた研究書。キムトを葬った遺跡から副葬品として発見された。
正気度喪失:1D8
〈クトゥルフ神話〉:+2%/+8%
神話レーティング:10
研究期間:6週間
呪文:《時空門》、《門の観察》、《門の創造》
結末
“ミルラ”は手に入っただろうか、探索者は明日香にどう報告すべきだろうか。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
2025年11月08日 [長年日記] 編集
§ [CoC] シナリオ:怪物物件
今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
某地方都市にある築50年以上の古いアパート、戸村コーポ二号館。そこは世界の裏側で生きる闇の者たちに家を斡旋するブローカーが便利に使っていた物件でもある。
アパートの所有者である戸村不動産は、このおんぼろアパートを再開発することにしたが、幾人かの入居者と連絡が取れなくなってしまっている。戸村不動産は
しかし、そこに住んでいるのは旧支配者の従者や食屍鬼、魔術師たち。一筋縄ではいかない住民たちを戸別訪問し、移転の交渉をまとめたり“いない”ことを確かめたりしていけばシナリオは終了である。
NPC紹介
リチャード・アプトン:30歳?、戸村コーポ二号館の105号室住人。本名はリチャード・アプトン・ピックマン。H・P・ラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で語られた画家で、食屍鬼。たまに創作意欲を満たすために地球を訪れる癖があり、画家として活動している。人間に対しては危害を加えられない限り理性的な対応をする。
シナリオの導入
探索者たちは戸村不動産に呼ばれ、戸村重樹から話をされる。彼は「うちの物件に立て替えを予定している戸村コーポ二号館というのがあるんだが、4部屋の住人と連絡が取れないんだ。会社とはいえ夫婦経営なので手が回らないので、取り壊しと退去のことを言いに行ってくれないか」と話す。探索者たちが了承するなら住人に書いたメモと鍵束を渡し「暴力団の立ち退き屋みたいなことはしないでくれ。あくまで穏便に、悪くても住人がいて連絡がつくことが確認できればそれでいい」と彼は念押しをする。
1.戸村コーポ二号館
戸村コーポ二号館は住宅地の外れにある、木造2階建てで外側に各部屋を繋ぐコンクリートの通路があり、錆まみれの階段で2階へ上るようになっていて、これまた錆塗れの鉄製の通路で各部屋が繋がれている。1階2階共に5部屋ある、もう築50何年の物件だ。
建物の近くにはマンションが何棟か建っており、その狭間にあるせいか余計古々しく、薄暗さを感じる。
連絡が取れない部屋は102号室、105号室、202号室、203号室の4つである。
メモを見るなら、102号室は
探索者たちは好きな順番で部屋を回ることができる。
2.102号室
小野佐弥子の部屋である。ところどころが錆びた金属のドアに“小野”と書かれたネームプレートがあり、ポストの部分には電気、ガス、水道などの請求書が数ヶ月分挟まっている。
外に回ってみるなら、カーテンは開け放されたままで、家具は少ないがよく整理された部屋と、敷かれたままの布団が見える。
リチャードに話を聞けるなら、深夜にゴミ出しをする姿などを何度か見たが、小柄な老女だったと話す。
中に入るなら、入ってすぐのところに台所兼用の4畳半ほどのスペースがあり、風呂場へのドアと、奥の部屋への襖がある。以下、このアパートはすべてこの作りである。
襖は開け放たれており、その奥は6畳ほどの畳部屋で、押し入れがある。家具はホームセンターで買えるようなカラーボックスや棚がいくつかあり、綺麗にまとめられている。窓際には布団が敷かれており、その布団には緑色のカビのような、染みのようなものが人型についている。この染みを見て〈アイデア〉ロールに成功すると、ここに何かが“いた”ことに確信を持ち、0/1D3の正気度ポイントを喪失する。
〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、グラーキの従者というゾンビのような怪物は、日の光に当たり続けると緑色に変色しながら死んでいくことを思い出せる。
キーパー用情報
この部屋に住んでいた小野佐弥子は生まれてかなり時間の経っていたグラーキの従者である。彼女は202号室の住人で魔道士の蓮台寺明久によって創造され、従僕として使われていた。しかし数ヶ月前のある日、彼女はカーテンを閉め忘れたまま寝て、太陽光線にさらされて消滅してしまったのだ。これが彼女が呪われた不死を厭うてのことかどうか、知る者はもはやいない。
3.105号室
リチャード・アプトンの部屋である。ところどころ錆びたドアにはネームプレートも何もなく、まるで空き部屋のようにそっけない。
外から様子をうかがっても、窓には遮光カーテンがかかっていて中の様子を見ることはできない。
呼び鈴を鳴らしても住人は出てこないが、電気メーターを見ればそれが回転しているので電気が使われていることがわかる。これはプレイヤーが提案しなくとも、〈アイデア〉ロールに成功すれば気づくことができる。
〈聞き耳〉に成功しても、中でゴソゴソと人間大の存在が動いていることがわかる。
中に入ると、シンナーのような臭いがする。〈絵画〉に成功すればこれは油絵で使われるテレピン油の臭いであることがわかる。
台所に繋がる襖は開け放たれており、続きになって使われている部屋の数ヶ所にはイーゼルと書きかけのカンバスがあり、壁にもいくつかのカンバスが立てかけられている。それらはすべて人が人を喰う、カニバリズムがモチーフとなった冒涜的なものだ。ハードの〈絵画〉に成功したなら、1920年代のアメリカに、カニバリズムの絵ばかりを描いたリチャード・アプトン・ピックマンという画家がいたこと、彼は謎の失踪を遂げたことを思い出せる。
部屋の主であるリチャードは部屋に入ってきた探索者たちには背中を向ける形で、猫背になって一心不乱にカンバスに絵筆を走らせている。探索者たちが部屋で動き回っていると「It's noisy」と早口で言いつつ振り向く。そこにいるのは顔に犬のような口吻を持ち、鋭いかぎ爪を持つ怪物のような男だ。その体からは凄まじい悪臭がする。彼は食屍鬼だ。その姿を見た探索者たちは、0/1D6の正気度ポイントを失う。
突然の来客に気づいた彼は慌てて顔の下半分を覆う医療用のマスクをつけて、「失礼。勝手に入られると困るのですが」と早口で、しかし流暢な日本語で話す。探索者たちが建物の取り壊しと退去の件を話すなら、「見ての通りここには電話も無いし、スマホも持っていない。仕事に集中していると呼び鈴も聞こえなくなるたちでね。感謝する。できるだけ安く住める新しい物件を手配して欲しいと社長に伝えてくれ」と、いたって友好的に応答する。
探索者たちが彼の外見や素性来歴について追及するなら、ハードの〈威圧〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功したなら、「私を見ての通りここは古いしその筋のブローカーが異形の者、外法の者が、かりそめの宿として都合よく使う建物なのだ。残りの連中もおおかた同類だろう」と事情を説明する。イクストリームで成功している場合、「他の連中の説得に不安があるなら私も同行しよう」と探索者たちが求めれば彼も同行することに承諾する。結果がレギュラー以下だった場合、「私は人体改造フェチなのだ。風呂も入らん」などと話をはぐらかされるのみである。
探索者たちが彼を攻撃するようなことがあった場合、建物の外へ逃げて路地裏や下水道に入って撒こうとする。
キーパー用情報
リチャードはラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で失踪したリチャード・アプトン・ピックマンその人である。彼はドリームランドからたまに外界へ出て、創作活動を行なっている。いくつかの偽名で画商に絵を売っているので金銭的には不自由の無い生活をしているが、身分を偽装するのにも金がかかり、もとより人嫌いのため目立たない場末に住むのを好んでいる。
4.202号室
蓮台寺明久の部屋である。錆のかかったドアには“蓮台寺明久”と書かれた名刺がガムテープで貼ってある。
外に回ってみるなら、カーテンが閉められているため中の様子はうかがえないし、呼び鈴を鳴らしても人は出てこない。
リチャードに話を聞けるなら、蓮台寺は探偵を自称していたと話す。
鍵を開けて入ろうにも、ドアの鍵と合わない。鍵穴の部分だけ新しいので、勝手に変えられているとわかる。〈鍵開け〉に成功すれば開けることができるし、体当たりを試みる者のSTRが合計80なら、ドアを壊して中に踏み込むことができる。
部屋に入ると、台所には食べ終わったインスタント食品やコンビニ弁当を入れたゴミ袋にハエがたかり、畳部屋の方にも布団が敷かれ乱れたままの金属パイプ製ベッドやキャビネット、事務用の小型デスクなどがそのまま放置されている生活痕がある。しかし、部屋の中には誰もおらず、夜逃げでもしたかのようだ。
デスクの上には赤と青の大学ノートが2冊ある。赤のノートは彼の日誌で、小野佐弥子を先に入居させて安全を確認できたので自分も入居したこと、小野が消えてしまったこと、“トゲ”という何かをふたたび手に入れたこと、隣の夫婦の仲が悪くケンカの怒号で研究に身が入らないこと、衝動的に“トゲ”を隣の夫婦に使ってしまったことが書かれている。
青のノートには英語と日本語が併記される形で理解しがたい内容が書かれている。流し読むとグラーキなる存在を崇拝する宗教団体の書いた聖典の逐語訳だとだけわかる。
キャビネットの中には超常現象のことを扱った本や雑誌が数冊入っているが、まだ色々なものが入っていた痕跡がある。
これ以上探索しても何もない。どうやら蓮台寺という人物は失踪しているようだ。
蓮台寺明久のノート
英語と日本語の併記、蓮台寺明久著、2020年頃
グラーキの黙示録の断片から作られたカルトの聖典を、さらに蓮台寺明久が訳したもの。カルトは現代に興ったもののため、本来のグラーキの黙示録から失われたものはあまりにも多い。
正気度喪失:1D6
〈クトゥルフ神話〉:+2%/+4%
神話レーティング:5
研究期間:2週間
呪文:《神格との接触/グラーキ》
キーパー用情報
探偵を名乗っていた蓮台寺明久は、その実現代に生きる魔術師だったようだ。彼はグラーキの黙示録の断片を見つけて独自に翻訳してグラーキのとげを入手し、それを衝動的に隣の夫婦に使い、露見を恐れて夜逃げした……というのが大体の物語であろう。いずれにせよ、蓮台寺の物語は別のシナリオで語られるかもしれないが、今回の彼の役割は夜逃げした怪しい探偵である。
5.203号室
田中宏と田中正子の夫婦の部屋である。ところどころが錆びたドアにあるネームプレートには“田中”と書かれている。ポストには電気代やガス代の請求書が3ヶ月分挟まれている。
外に回ってみるなら、薄いカーテンの向こうにふたつの人影が動いているのがわかる。どうやら、夫婦は在宅中のようだ。〈アイデア〉ロールに成功すれば、その動きには何かをやろうとする目的のような生気がないことがわかる。
リチャードに話を聞けるなら、夫婦仲が険悪だったようでたびたび怒号が飛び交っていて迷惑していたが、数ヶ月前にぱったりと止んだと話す。
部屋に入ると、台所部分は夫婦喧嘩の名残なのか割れたままの食器がいくつか放置されたままになっている。奥の部屋に続く襖は閉じられたままだ。
襖を開けると、使い古された家具がある部屋の中を体のあちこちに青黒い跡を持ち、肌がしなびた普段着の男と女がぎくしゃく動き回っている。この異形の人体を見た探索者たちは1/1D8ポイントの正気度を失う。彼らは探索者たちを見るとぐるりとそちら側を向き、「ニンゲン……キョウミブカイ……」、「……フトドキモノ……オワセル……」などとつぶやきながら襲いかかってくる。
彼らは蓮台寺明久によってグラーキのとげに刺され、グラーキの従者と化した田中夫婦である。彼らはグラーキとの交信により蓮台寺を追う目的を与えられてはいるものの、手段がわからないためにただ部屋の中をうろついていたのである。しかし、探索者たちが部屋に入ってきたことで事情は変わる。グラーキは探索者たちが有用な従者たりうる存在と認識し、この使えない夫婦で捕獲しようとしているのだ。
キャラクターたちが田中夫妻を倒すと、彼らはぐずぐずと緑色のカビや染みのように畳に沈んでいく。そしてどこかからゴボゴボと水が泡を立てるような『見タゾ』と“人の声のような音”が聞こえてくる。この“音”を聞いた探索者たちは1/1D6の正気度ポイントを失う。
キーパー用情報
田中夫妻は闇の世界の連中とは関係なく、家賃の安いこの物件に入居した哀れな犠牲者である。彼らは夫婦仲が悪くて外にまで声が響くような夫婦喧嘩をしていたため、隣の部屋の蓮台寺明久からグラーキのとげを刺され、グラーキの従者へと変成させられたのだ。それ以後はグラーキと感覚を共有する操り人形となっていたが、グラーキはこの夫婦をあまり使えない存在と思っているのか半ば放置していた。
結末
探索者たちがすべての部屋を回り終えて問題を解決すれば、ほとんどの部屋の借主は失踪ということになり、しばらくは警察が捜査をする。やがてそれも忘れられ、しばらくすれば再開発が始まるだろう。
リチャードが無事なら彼はまた別の建物に引っ越すことになる。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
2025年11月15日 [長年日記] 編集
§ [CoC] シナリオ:カメラを止めろ!
今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
某地方都市にある某大学。そこには映画制作同好会がある。ほとんどは遊びのために入った者たちだが、その中にいる
山田は今回の題材を森で怪物から逃げるモキュメンタリーにしようと決めた。怪物は描写されず、人が逃げたり倒れたりする演出なので、予算もかからない。残るはキャストとスタッフだが、同好会の者たちはやる気がなく人が集まらなかったため、山田は探索者たちにも協力を仰いだ。
だが、山田がロケ地に選んだ大学の近くにある森の中には、星の吸血鬼が潜んでいる。この怪物は普段は森の中に住んでいる小動物や野良犬、野良猫などを捕食して命を繋いでいるが、山田のロケ隊がやってきたため、久しぶりに大物を狩ろうと動き始める。
星の吸血鬼による被害が出ても、山田は探索者たちが気を利かせた迫真の演技、演出だと思い込んで撮影を続けようとする。彼に森から出る決意をさせるか、星の吸血鬼を倒せばシナリオは終了である。
NPC紹介
シナリオの導入
探索者たちは山田勝也から大学近くのファミレスに呼び出され、打ち合わせを行なう。ここで彼の口から、新作は森の中で見えない怪物から逃げるホラーで、ヒロインである高村輝里の頭につけたセルフィーのカメラも使いリアリティを出したいこと、探索者には犠牲者や通行人などのエキストラと、機材や道具の準備を頼みたいと、撮影の計画を話すこと。
高村は山田にほぼ泣き落としで連れて来られたため、打ち合わせでは終始困惑した様子であるが、スマホでメモを取るなどして自分がやることはきちんと把握しようとしている。
山田は次の休日からクランクインだと宣言し、食事代はおごってくれる。
1.森の外
休日の朝、大学の裏手にある森に山田、高村、探索者たちは集合する。山田は撮影機材を詰めた大きなリュックを背負っている。
「森の中にちょっと広場があるんだ。そこで準備をしよう」と山田は一同をうながす。
森の中には昔使われていた遊歩道があるが、レンガはところどころ剥がれてその間から草が繁っている。
遊歩道をしばらく歩くと、ぐったりとした猫の死体がある。〈アイデア〉ロールに成功すると、血が抜かれてカサカサになっていることに気がついてしまい、0/1D2の正気度ポイントを喪失する。山田はこの死体を見て「あとで埋めてやるか?」と言って先へ進む。
2.広場
遊歩道の先にはコンクリート製のベンチがいくつか据えられた広場がある。山田はベンチの近くに撮影機材を置いて準備を進めながら、高村にメイクの指示をする。
準備は数十分で終わる。山田は探索者たちに「君らは死体役と小道具の配置を頼むよ。俺が指示していくから安心してくれ」と話して血糊や切り裂かれたジャケットなどを配る。
3.遊歩道
山田は「まずはこの先の遊歩道でヒロインが何者かから逃げるシーンを撮影するぞ。荒れた道を表現したいので、その辺の落ち葉を遊歩道の上に撒いてくれ。残りは死体になってこの先で倒れててくれ」と探索者たちに指示する。この時、複数の探索者が死体役に立候補した場合「いいな、画面が派手になるかもしれない」と承諾する。
落ち葉を撒きに行った探索者たちはハードの〈目星〉に成功すれば、クスクスというような鳴き声のようなものと一緒に、大きなタコのようなシルエットの血管の塊のようなものが見える。これを見てしまった探索者たちは、1/1D10の正気度ポイントを喪失する。
死体役になった探索者たちが指示された場所へ向かう時に〈目星〉に成功すれば、どこからかクスクスというような鳴き声のようなものが聞こえてくる。
このことについて山田に訊ねても、「映画の効果音は後から入れるんだよ」と答えるだけである。
4.襲撃
死体役の探索者たちが倒れているとそこに高村が逃げる演技をして向かってきて、後ろからスマートフォンを構えた山田がついてくる。
そうしていると、クスクスという鳴き声のようなものが誰にも聞こえるようになり、死体役の探索者1人に目掛けて星の吸血鬼が成功するまで“かぎ爪で捕まえる”を行ない、成功したならば“噛みつき”を行なう。
ここまで来たらここに明らかに害意を持った何者かがいるとキーパーは宣言してもよい。
ここで星の吸血鬼による“噛みつき”が成功したら、そのトゲだらけのタコのような姿が明らかになり、1/10の正気度ポイントを失う。死体役たちの方に向かってきた高村は悲鳴をあげて広場の方に向かって逃げていく。しかし、山田は「すげえ! 誰がこんな道具用意したんだ!?」と、探索者たちの仕込みと思ってカメラを回し続ける。
ハードの〈威圧〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功したなら、すっかり興奮してしまった山田をなだめて逃げ出すことに同意させることができる。
星の吸血鬼と戦うなら、耐久力を9減らしたら命の危険を感じたのか逃げ出していく。
5.逃げ出す場合
探索者たちは星の吸血鬼から逃げ出すこともできる。この場合、チェイスを行なうことになる。チェイスに成功すれば、森の外まで逃げ出せたことになる。星の吸血鬼はこの森を縄張りと定めているため、それ以上の深追いはしない。
山田を説得できていない場合、彼はカメラを止めずに撮影を続ける。そのまま放っておけば星の吸血鬼の犠牲になるため、チェイスは行なわずにその場を逃げ出すことができる。
結末
いち早く逃げ出せた高村はなんとか森の外に逃げて探索者たちに駆け寄って泣き出す。山田を説得して逃げ出せていた場合、「ちょっとは撮れてるか? それなら……」と新しい編集プランを考え始める。数ヶ月後、山田のフィルムはコンテストでそこそこの結果を出し、彼は高村と探索者たちを例のファミレスに呼んで打ち上げを行なう。
山田を放置して逃げたなら数日後、血液を抜かれた山田の死体が発見される。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
2025年11月22日 [長年日記] 編集
§ [CoC] シナリオ:METAMORPHOSE
今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
某地方都市の某大学の学生
探索者たちは一花がヘルプに呼んだDJやVJ、裏方要員である。
一花はVJとして参加し、自分が流す曲の段取りについては未発表のシークレットとしているが、彼女が書いた曲とPVは1970年代のアングラ演劇華やかなりし頃に和訳された戯曲『黄衣の王』にインスピレーションを受けた『King in Yellow』で、これは演者を依代に黄衣の王を降臨させる儀式になってしまうものだ。
準備期間中に事情を探り、イベント当日にパニックを集束させればシナリオは終了となる。
NPC紹介
シナリオの導入
探索者たちは成宮一花や馳栄勝に学園祭で行なうレイヴのスタッフとしてスカウトされ、学生たちがよく使う大学近くのファミレスで顔合わせと打ち合わせを行なう。2人の他には残り3人のDJ、VJ担当者と、5人の裏方がいる。
DJ、VJで呼ばれた探索者たちは、内容はお任せで尺は30~60分、機材は主催が準備している物以外は自分で持ち込むようになど、ステージでやることを詰めていく。
裏方で呼ばれた探索者たちは、機材の搬入や搬出、持ち込み機材を扱ううえでの段取り、屋外でやるため会場内外の人の流れの制御などの話を詰めていく。
こうして打ち合わせは進むが、一花は「アタシの出番は主催者権限のサプライズってことで。大丈夫大丈夫」と自分のパートで何をやるかは話さない。
打ち合わせの中で〈心理学〉に成功すれば、一花の様子にイベント前の興奮とも異なる、一種の狂気に近い何らかが混じっていることに気づける。これはキーパーがプレイヤーたち〈心理学〉を行なうように告げてロールさせること。
一行は数時間の打ち合わせをした後、一花は「これから2週間、ゲストの中でもヘルプで来た人は今日から参加で全員集まれる日は少ないけど、グループメッセや会える人で打ち合わせして詰めていきましょ」と締めくくる。
1.成宮一花との打ち合わせ
一花とは、学園祭までの暇な時間の合間に3回打ち合わせの時間を取ることができる。この打ち合わせの時に探索者が〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功すれば、彼女の家を訪問することができる。
2.成宮一花の家
一花の家は大学から歩いて10分ほどのマンションだ。玄関には暗証番号によるセキュリティがあるタイプだ。
中はワンルームタイプで、よく掃除されている。レコードやCDが詰まった棚があり、音楽用の機材が整理されて置かれている。部屋の中央にあるテーブルの上にはノートパソコンと、1冊の古ぼけた薄い本が置かれている。
この本について一花に訊ねれば、「クラブで会ったおっさんに貰ったんだ」、「演劇の脚本で、そこから新曲とPVを思いついたの」などと話をしてくれる。本は以下のデータを参照すること。
『黄衣の王』
日本語、翻訳者は不明、1970年
英語版の『黄衣の王』を翻訳した日本語版の演劇脚本。アングラ演劇華やかなりし時代に翻訳され、マイナーな劇団によってどこかの小劇場で上演されたという噂がある。
正気度喪失:1D10
〈クトゥルフ神話〉:+1%/+4%
神話レーティング:15
研究期間:1週間
呪文:なし
この本には印象的な意匠の印が描かれている。これはハスターを象徴する黄色の印であり、本を読んだ探索者は混沌とした渦巻きが何らかの形を取っていくようなイメージが頭の中に流れ込み、0/1D6正気度ポイントを失う。
この本の印を見た探索者は眠りにつくごとに0/1正気度ポイントを失う。これは〈正気度〉ロールに成功するか、狂気に陥るまで続く。
探索者が動揺する様子を見せると「ね? 凄いでしょ?」と一花は満足そうに魅力的な笑みを見せる。一花に本が欲しいと言うなら、ハードの〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に説得すれば「惜しいけど、まあこれくらいでなら」と5000円で売ることを了承する。イクストリームで成功した場合、ただで貰える。
3.事前の対策
探索者たちが一花の様子がおかしく、その対策としてイベント前に何かを行ないたい場合の例を以下に紹介する。
一花の新曲とPVは彼女のノートパソコンに保存されている。これはパスワードで保護されている。彼女が食べ物を取りに行った時やトイレに行く時に隙を見てデータを削除することを試みるなら、ハードのDEXと〈図書館〉の組み合わせロールに成功すれば、データの保存場所を発見して削除することができる。ハードのDEXと〈コンピュータ〉の組み合わせロールに成功すれば、ネットにアップロードされているバックアップを発見して、それを削除することができる。この2種類の判定は一花がいない時にいずれか1回しか行なえない。どちらかが残っている場合、一花はバックアップからデータを復旧させる。
こうした場合、データを失った一花は激怒して状況証拠から探索者を犯人と決めつけ、イベントのメンバーから外すことを通告する。探索者がイクストリームの〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功しなければ人間関係を修復できない。
コンピュータを操作してデータを洗い出す場合、探索者がハードの〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉のいずれかに成功すれば、一花にパソコンが不調そうだと思い込ませることができる。こうした場合、彼女はパスワードを探索者たちに教え、イベントまでになんとかして欲しいと頼み込む。この場合は〈図書館〉ロールに成功すればデータの保存場所とネットのバックアップを発見できる。しかし、この場合でもデータを失った一花は激怒し、前述のような判定を行なう必要がある。
スタッフの栄勝たちや参加するDJ、VJたちに話を聞いても、一花は絶対繋げていけるからと自信を持ち、なおかつ主催者特権と言い張って自分の段取りを明かしていないことがわかる。
一花に『黄衣の王』を渡した者について話を訊くなら、ハイヴというクラブに出入りしているアキと名乗っている男だったと話す。この情報からハイヴのマスターに話を訊いても、そういう客はいたかもしれないが、こういう商売なので一々客の顔なんて覚えてられないと話し、捜査はここで止まらざるをえなくなる。
4.King in Yellow
イベント当日、客が温まってきたタイミングで一花がステージに上がり、VJを始める。場はさらに盛り上がり、最高潮に達そうとした時、彼女は『黄衣の王』からインスピレーションを得て書いたオリジナルの曲『King in Yellow』を流し、背後のモニタからは映像を流す。これが始まった瞬間、彼女の髪の色と服は黄色を中心としたさまざまな色に次々と変わり、顔は青白いマスクをつけたような姿になる。彼女の体を依代に黄衣の王が降臨したのだ。
この成宮一花の変貌により場はさらに盛り上がる。テンションの上がった者は次々と狂ったように踊り出し、彼らの姿も黄色がかかった幻想的な色になっていく。
一花のデータを破棄していた場合でも彼女は残された素材などから突貫でデータを作り直し、なんとか場を繋げられる、すなわち不完全な儀式が行なえる程度の曲とPVを完成されている。この場合、彼女は黄色いオーラのようなものを体中にまとう程度で済む。しかし観客はこれを演出の一環と思い、完全な儀式が行なわれたほどではないが大いに盛り上がる。
この段階でPAの栄勝が「やばい、こんなの一花さんとシークレットで詰めてた段取りにも無いですよ! 客もなんか様子おかしいし!」と探索者たちを探しては異常を告げに来る。
5.降臨そして伝染
完全な儀式が発動して一花に黄衣の王が降臨していた場合、彼女はマスクを外して会場の参加者やスタッフ全員に黄衣の王としての姿を晒し、彼らに1D3/1D10正気度ポイントを失わせる。これは彼女を目にした探索者も例外ではない。会場は熱狂とパニックが入り混じった状態と化す。
この狂乱によって踊り狂う参加者たちも次々とマスクをつけた黄衣の王の姿になっていく。この騒ぎに会場の外からも何事かと人々がやって来て、彼らも黄衣の王を見て狂乱していく。これは一花を止めない限り学園祭に来た者たちすべてを巻き込んだパニックとなっていく。
探索者たちが電源コードを引き抜いたり機材を破壊したりしても、なぜか音楽は鳴り止まず、空中にホログラムのようにPVが流れ続ける。
降臨した黄衣の王を退去させて事態を収拾するには〈近接戦闘(格闘)〉〈近接戦闘(絞殺ひも)〉などのマヌーバーで一花を拘束する必要がある。この際、一花のビルドは0として計算する。しかし、この状態の一花は黄衣の王としての攻撃方法を持ち、全力で探索者たちに抵抗する(ビルドが異なることによるDBの変化には注意すること)。拘束に成功すれば、黄衣の王の憑依は解ける。
一花の曲とPVが不完全だった場合、曲の最後に仮面を外した黄衣の王の姿がPVに映り、それを見た者たちは1/1D3の正気度を失う。
結末
完全な黄衣の王の降臨がなされてその事態が集束した場合、学園祭での一件は伝説のレイヴとしてその筋の者に語り継がれ、一花の名声は跳ね上がる。
黄衣の王の降臨を放置した場合、その狂乱は大学、街、そして世界へと、それこそスマートフォンで現場を映している者たちの電波によって伝播していき、世界はパニックに陥る。
一花の曲とPVが不完全だった場合、斯界での彼女の評価は若干落ちるが、彼女は諦めずに新たな表現を作っていくことだろう。
なお、イベントの機材を破損させた場合、一花と栄勝、探索者たちはしばらくの間賠償請求に悩まされることになるだろう。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
2025年11月29日 [長年日記] 編集
§ [CoC] シナリオ:連なってきたモノ
今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
重大な情報
このシナリオは単体でもプレイできるが、『廃屋の宝探し』、『怪物物件』、『カメラを止めろ!』、『METAMORPHOSE』をすべて行なった後の最終シナリオとしても設計されている。そのため、事前にこれら4本のシナリオをプレイしておく方が、より楽しめることだろう。
某地方都市には、
普段の蓮台寺はかつて殺した人の皮を被って真の姿を偽装しているが、それもそろそろ限界が見えてきた。しかし、彼は狡猾な魔術師である。この時代に殺人を犯す危険さを熟知している。そこで彼が思いついたのは、生命の力を宿す自存の源たる神格、ウボ=サスラの落とし子である。
蓮台寺は都市の下水道などをねぐらにする食屍鬼のコミュニティと話をつけて下水道にウボ=サスラの落とし子を召喚し、その落とし子の肉を加工し、新たに自分を覆うための皮を作っている。
だが、蓮台寺は落とし子とは魔術的な交感で居場所を把握することはできているが、完全な制御には至っていない。そのため、落とし子は飢えを満たすために街の地下をさまよい、時に外界へ出て生物を丸のみにしている。この落とし子は都市の環境に適応しつつあるため、犠牲者を半分ほど“食べ”たらその場に放置してまた下水の中に戻る習性を身につけた。
こうした事情で、街では野良犬や野良猫、カラスなどの動物をこそげ取る猟奇趣味の者が徘徊していると悪い噂が流れ、ペットの飼い主などは大いに警戒している。
こういう不穏な状態になっている街で、探索者たちは街にある寺の和尚
犬の散歩をしてる時に遭遇する怪異と対峙し、蓮台寺明久を止めればシナリオは終了となる。
NPC紹介
キムト:56歳(ミイラになった時の年齢)、古代エジプトの魔術師でヨグ=ソトースの信奉者。『シナリオ:廃屋の宝探し』で彼と友好的に話をつけたなら、彼は探索者への貸りを返すため、この時空へやってくる。
ポチ:9歳、馳家の飼い犬。柴犬で人懐っこい。
リチャード・アプトン:30歳?、かつて戸村コーポ二号館に住んでいた食屍鬼のリチャード・アプトン・ピックマン。現在は別の安アパートに引っ越したが、まだこの街に滞在している。『シナリオ:怪物物件』で彼と友好的に話をつけたなら、このシナリオで探索者たちが食屍鬼たちと接触した時に顔を見せ、地元の食屍鬼たちに蓮台寺蓮台寺と手を切るように話をつける。
シナリオの導入
探索者たちは馳家の人々からの頼みや近所のよしみで、起興寺の飼い犬、ポチを護衛しながら散歩することを頼まれる。馳河勝は探索者たちに飲み物と菓子をふるまいながら「心配しすぎかもしれんが、家族の一員だからな」と、ポチを見ながら話す。
1.川辺での危機
ポチの散歩コースは、寺から町内を一周してまた戻ってくるものだ。途中には結構広い
雨水管の近くには水鳥が羽を休めているが、それが排水溝の中からすっと出てきた灰色のゴムのような物に絡め取られ、足とももの少しを残して灰色の物体に取り込まれてしまう。この様子を見た探索者は0/1D2の正気度ポイントを失う。ポチはそちらの方を向いて激しく鳴く。
その鳴き声に反応してかしないでか、灰色の物体は周りを確かめるように蠢くが、しばらくすると背中の丸まった犬のような顔をした男が現われ、デッキブラシでその灰色の物体を排水溝に押し込んでいく。この男は橋の上からでもわかる臭気を発する食屍鬼であり、見てしまった探索者は0/1D6の正気度ポイントを失う。
そうこうしているうちに、顔の下半分を覆うマスクをした男が川辺の階段を下りていき、犬のような男に何事か話すと、言われた方はデッキブラシを持って慌てて引っ込んでいく。
マスクの男は探索者たちに近づく。彼も消臭剤の香りはするが、その下から嫌な臭いを発してしている。彼は「私は……そう、私立探偵のリチャード・アプトンという。どうやら少し面倒な事が起こっていて、君らに手伝いをしてほしい。なに、金は払うさ。犬の散歩をしてから来てほしい」と言う。
探索者たちが『シナリオ:怪物物件』で彼と遭遇していたなら、彼がリチャード・アプトンことリチャード・アプトン・ピックマンという食屍鬼だとわかる。その場合、彼は「私が以前住んでいたアパートの探偵を名乗っていた奴が、相当危険なことをしている。協力してほしい。犬の散歩中なら帰らせてからここに来てくれ」と言う。
2.ピックマンの話
探索者たちがピックマンのところに戻ると、彼は近くのホームセンターで買ったのか、ロープや懐中電灯を持っている。探索者が望むなら、チェーンソーやネイルガン(中型ナイフとして扱う)を準備していてもようだろう「私には無用だが、君らには必要だろう」と渡し、排水溝へ入るようにうながす。
ここしばらく晴天が続いていたため、排水溝に水は流れていない。ピックマンは歩きながら「これで私も長生きでね。君らがさっき見たような奴らの世界には少々顔が利く。ああいうのはこの街にも少々住んでいるのだが、どうも危ない橋を渡っているようで、忠告をしてやったのさ」と話す。
3.食屍鬼会議
排水溝をしばらく歩くと、少し広さがある地下遊水池に出る。そこには3体の食屍鬼がおり、人数分のデッキブラシが転がしてある。
食屍鬼は「人間が何しに来た!」と食ってかからんような勢いでとびかかろうとするが、ピックマンがマスクを外して探索者たちには聞き取れない謎の言語で話すと、一旦その場に静止する。
ピックマンは「彼らにも事情があるようだ。聞いてやってくれ」と探索者をうながす。ここで対人関係技能に成功すれば、彼らは蓮台寺明久という魔術師から100万円を貰い、彼らが住んでいるこの排水溝網の一部を貸したこと、蓮台寺はそこにウボ=サスラの落とし子という怪物を召喚して何か作業をしていること、外に出ようとする落とし子を排水溝に戻すのも仕事のうちになっていることを話す。金のことについてピックマンや食屍鬼に訊ねると「怪物が生きるには何かと金がいるのだ」と言う。
探索者たちが蓮台寺を止めることを決意するようなら、食屍鬼たちは彼が儀式を行なっている場所と、用心棒に食屍鬼が1人ついて行っていること教える(契約には教えるなと書いていないのだ!)。
4.行く手を阻む者、あるいは
排水溝の先には蓮台寺の下僕である3体のネズミ怪物が隠れている。探索者たちのうちで一番高い〈目星〉または〈聞き耳〉を目標に〈隠密〉ロールに成功し、ハード成功したネズミ怪物は、侵入者の接近を蓮台寺へと伝えに走る。見つかったネズミ怪物は、探索者に噛みつこうとして戦闘になる。
『シナリオ:廃屋の宝探し』でキムトと友好的に接していた場合、ここにはミイラが立っており、その足元には古ぼけた短剣が3本、ネズミ怪物に突き刺さっている。彼は「“目”は潰しておいた」と言い「時空を超越した者がかようなことをするのは良くないが」とネズミ怪物から短剣を引き抜き、「お前たちには借りがあるゆえ、使うがよい」と、《ナイフに魔力を付与する》を施した古ぼけた刃物(中型ナイフとして扱う)を3本与える。
探索者たちが同行を頼んだ場合、同行しているピックマンを見ながら「そこな食屍鬼は世界の闇、我は時間の外におる。理外の者たちに関わりすぎると身を滅ぼすぞ」と忠告するのみにとどまる。
5.最期
排水溝の終端はもうひとつの地下遊水池である。そこには灰色でゲル状の肉塊、ウボ=サスラの落とし子がおり、これを見た探索者たちは1/1D8正気度ポイントを失う。落とし子は変な場所へ行かないように食屍鬼がデッキブラシで追い立てている。
そこから少し離れた場所には蓮台寺明久がおり、広いテーブルの上で薄い皮のようなものをナイフや細工道具で加工している。
探索者たちが〈隠密〉などを使わない場合、蓮台寺は探索者たちに気づき「何かな? ここは私の工房だ。不法占有かもしれないが、役所を通じて話をしてくれ」などと話を引き延ばしながら、ウボ=サスラの落とし子に探索者を攻撃させようとする。この先制の一撃を見破るには〈心理学〉に成功する必要がある。
ウボ=サスラの落とし子に探索者たちを攻撃させた、あるいは探索者たちが攻撃した場合、蓮台寺は「余計な邪魔が入ったな。この街も潮時か」などと嘯き、手に持っている小型ナイフか、《萎縮》、《ウボ=サスラの落とし子の召喚》、《グラーキとの接触》、《手足の萎縮》、《破壊》の呪文を使って応戦する。彼の這うものとしての装甲は、ウボ=サスラの落とし子による丸のみ(mnvr)や、《ナイフに魔力を付与する》がかかった短剣には通用しない。
戦闘になると最初のアクションでピックマンは食屍鬼に自分の名を名乗り、ウボ=サスラの落とし子から離れるように指示する。これ以降、この食屍鬼は戦闘に参加しない。
蓮台寺は1点でもダメージを受けると蛆の塊である這うものとしての正体を現わし、「生かしては帰さんぞ」と激怒する。探索者たちは1D3/2D6正気度ポイントを失う。
ウボ=サスラの落とし子は戦闘が始まった様子に何か感じるものがあったのか、近くにいる者を手当たり次第に攻撃し始める。ダイスをロールして攻撃の目標を決めること。
勇気ある探索者は蓮台寺をウボ=サスラの落とし子に取り込ませようとするかもしれない。そうするなら、「蓮台寺をつかむ」と「蓮台寺を落とし子の体内に叩き込む」の2つのマヌーバーを成功させる必要がある。こうした場合、蓮台寺はウボ=サスラの落とし子に丸のみ(mnvr)されたことになる。
蓮台寺が倒れればウボ=サスラの落とし子はおとなしくなり、その場にわだかまる肉塊になる。
結末
ウボ=サスラの落とし子は、おとなしくなった状態なら灯油などをかけて燃やすこともできる。キムトが来ている場合は「仕事を増やしおって」と愚痴りながらもいずこかへと退去させ、彼もまたどこかへ去る。
ピックマンは探索者たちに丁寧に礼を言い、食屍鬼たちから交渉して得た分も含め、1人当たり10万円を探索者たちに渡す。また、探索者たちはこの街の食屍鬼たちにも恩を売れたことだろう。
それからしばらくすると動物虐殺事件はピタリと止み、やがては消え、この街はふたたび表向きの平穏を取り戻すことになる。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」